2025.03.15
97号:会いたい!湯島本郷まちの人
123年の歴史を背景に、未来に挑戦する靴下メーカーのパワフル社長
株式会社ウエストは、明治35年にこの文京区関口の地に創業した123年の歴史をもつ靴下メーカーです。昭和39年には岩手県にもストッキング工場「東北ナイロン」を設立し、業界で多くの大手メーカーに商品を提供してきました。 しかし平成16 年に岩手の工場を閉鎖。 自社工場を持たないファブレスメーカーとして、事業モデルを大きく転換せざるを得なくなりました。
そのときに誓った「大手と同じ土俵には上がらない」という経営理念のもと、 2015年に1キロあたり1万円~3万円の最高品質の糸を使用し、徹底して素材に拘った「イデ・オム」という高品質ブランドを立ち上げました。
母の涙でしょうか。私が中学に上がる年に父が亡くなり、専業主婦だった母が跡を継ぎました。生産現場の仕事は厳しく、家に帰って毎晩泣いている姿を見て、いつか母の力になりたいと思ったのがきっかけです。
でものちに母から『一番辛かったのはあなたが入社した時』と言われました。 せっかく味方が増えたと思ったのに、生意気な意見ばかりでと(笑)
私は三姉妹の真ん中でしたが、父の亡き後姉と妹が東京に引っ越し、東京本社と岩手工場を行き来する母との生活で培ったたくましさが、今の原動力となっています。
一番大変だったのは岩手の工場の閉鎖ですが、その次はレナウン・インクス工場の継承でしょうか。
私たちは各地の工場と協力しながら事業を展開していましたが、2022 年の8月、協力頂いていたレナウン・インクスが工場を全面閉鎖するという事態に直面しました。
私たちの商品の品質を維持するためには、この工場と職人の技術が必要だと判断しましたが、周囲の反対、社員の再雇用、土地や建物など、たくさんの課題がありました。その課題を半年間にわたり調整し、工場の継承に踏み切りました。
この決断が出来たのは、ひとえに岩手工場の閉鎖の経験があったからだと思います。
最高品質の糸を使用した「idéhomme」の商品
昭和40年代 当時の旧岩手工場
創業者 初代 西村信次郎
今年から2030年に向けた3つの新プロジェクトを推進しています。
1.ECサイトおよび生産管理システムのリニューアル
2.いわき工場の新設(2030年目標)
3.本社ビルに「東京靴下スタジオ(靴下の小ロット製造やオーダーメイド対応やワークショップやセミナーを開催する場所)」を開設(2026年目標)
東京本社にスタジオを作るのは、会社を育ててくれたこの地域に恩返しをしたいという想いもあります。また、いわき工場には地域の人々が靴下に親しめるカフェなども併設したいと思っています。
大学時代はゴルフ部だったのでゴルフは好きですね。でも今の一番の趣味は食べることです(笑)。
食べることを追求するあまり、年に数回、食をテーマにしたツアーやコラボイベントを開催しています。そのお陰で最近は友人の多くが飲食関係者になりました(笑)。
昨年は、いわき工場で従業員とその家族、地元の方々を対象にした「感謝祭」 BBQを実施しました。いわき工場でつくる靴下の世界観を伝えるために、ただのバーベキューではなく、六本木ヒルズの『ジャン・ジョルジュトウキョウ』のシェフと支配人などにご協力いただき、地元の野菜や魚、肉を使った特別な料理を提供してもらいました。これは、業種に関係なく職人の「技術・誇り」は、本当に素晴らしいんだという事を、工場の人たちに再認識してもらうためのものです。
このように私が食にこだわる理由は、 何をどのように食べるかで人の感性が違ってくると考えるからです。この考え方は靴下づくりにも繋がっています。
「皮脳同根」という言葉をご存じですか?皮膚と脳は同じ根を持つという意味で、受精卵の外胚葉が細胞分裂の過程で皮膚や脳になるのです。よって肌が心地よいと脳が活性化され、脳に受けたストレスは肌荒れとして表れるという研究結果が出ています。
だから私たちは、天然素材にこだわった靴下で「足元の感性を呼び覚まし」、 そして「脱ぎたくなくなる靴下」を作り続けます。