2022.07.17
81号:会いたい!湯島本郷まちの人
父が先代の住職で私は2人姉妹の姉ですが、もともとは、お寺を継ぐつもりはありませんでした。ところが私が30歳の時に、お寺の跡継ぎのことを決める間も無く、父が亡くなってしまったのです。
宗教法人であるお寺の建物や敷地は、 個人の持ち物ではありません。住職がいないと家族はお寺を出ていく必要があるんです。当時、お寺に住んでいたのは祖母、母、妹。私は結婚していて上の子がお腹にいました。緊急家族会議を行い、悩みに悩んだ結果、「父が守ってきたお寺を守りたい。お檀家の皆様に育てていただいた者として役割を果たしたい。女性でもできるはず。」と腹をくくりました。
一年間は育児に専念して、31歳で大正大学に編入、10歳年下の若者と机を並べることになったのです。大人になって新しいことを学ぶことは、ものすごく新鮮でとても楽しかったです。とはいえ、慣れない育児と大学の勉強を両立させるのは大変でした。子供の寝かしつけをしながら卒業論文を書いたりもしましたが、家族と周りの方に助けていただいて、なんとか乗り切りました。
東大病院が近いので、お子様を亡くされた方のケアをしたいですね。信仰や宗派を問わず、亡くなった子供のためにお経をあげて、「産んであげたかった」 「育ててあげたかった」という思いを持つ方のグリーフケアをしたい。
あとは、「子供念仏会(ねんぶつえ)」をやりたいです。小さい木魚をポクポク叩いて念仏を唱える機会を作ることで、 本堂に入ってもらうきっかけ作りをしたい。あとはお母さんのためのワークショップもやりたいことのひとつです。 子育てをはじめ、女性の人生にはいくつも転機が訪れます。悩みに直面しても、誰にも話せないことってあるものですが、そんな時にシングルマザーで住職という私であれば、お母さんたちもしがらみなく話せるんじゃないかな、と思っているんですよ。
講安寺はお檀家さんのための小さなお寺なので、ホームページはありませんが、いずれは情報発信をしていきたいですね。とはいえ、小さい子供を抱えたシングルマザーなので思うように時間は取れませんし、コロナ禍でなかなか動けません。やりたいことはたくさんあるので、じっくり構想を練っているところです。
人は誰でも『生きていく力』になるものが必要です。毎日の生活のなかで、心に寄り添う時間を作ることは、とても大切なことですから。命のありがたみや親子の縁など、生きる上で大切なものを発信していきたいですね。そこに宗教者として果たすべきものがあると思いますし、お寺の存在意義を感じていただける機会になるのかな、と思っています。
お施餓鬼でお檀家さんとのお話し
コロナ禍の行事は住職と職員のみ
住職から母の顔にもどる瞬間
浄土宗 専修山 講安寺
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