まちの人 alt

2021.09.19

株式会社折勝商店 代表取締役社長 石山 勝規さん

76号:会いたい!湯島本郷まちの人

創業1920年(大正9年)。湯島2丁目にある折勝商店は、創業から100年以上続く「折箱」の老舗です。今回は4代目社長・石山勝規さんにお話を伺いました。

目に見えないし、数値化もできないけど、ご縁や信頼関係や思いは何より大切。後の世代によい環境を残すことが使命です

 そもそも「折箱」って何ですか。

 折箱は、厚さ2mmの木を折って作る天然素材の食品容器です。その起源は聖徳太子の時代までさかのぼるといわれていて、日本独自の文化です。木には通気性と優れた抗菌作用があり、折箱に入れた食品は腐りにくいことが特徴です。創業者は祖父・石山勝蔵で、僕は4代目ですが、代々、名前に「勝」の字がついているんですよ。

事業で大切にしていることは?

 まずは「ご縁」です。世の中には「目に見えるもの」「目には見えないもの」があります。見えるものは数字で表されるもの。例えば売上ですね。だけど、人脈や、お客様への思い、信頼関係やチャンスといったものは、数字では表せませんが、とても大切なものだと思っています。
 「折勝の商品を使えば使うほど森がゆたかになる」を会社のコンセプトにしています。原料となるエゾ松は、製品として使えるようになるまで120年もかかります。こんなに長い時間をかけて育つものを後世に残していくことは並大抵ではありません。SDGsとも関係しますが、きちんと手入れをして資源を循環させることで、よい環境を残していくことを目標にしています。

そう思ったきっかけは?

 子供の頃の体験とつながっています。子役として芸能活動をしていた僕は、お金を持っていたので、お菓子を買っては友達にばらまいていたんです。鼻もちならないということでいじめられ、少年時代はどこにも居場所がありませんでした。
 そんなある日、林間学校に行きました。みんなが楽しそうにしている場所で疎外感を味わい、いたたまれなくなった僕は、その場を離れて林に向かいました。星が見える夜で、風に揺られる木の葉の音や、香りを全身で感じたとき、なぜかすごく安心して気持ちも落ち着いたんです。
 その一方で「でも、僕は将来、こんなふうに癒してくれ『木』を切って、使う仕事をしなくちゃいけないんだ」と絶望的な気分にもなりました。当時、大量消費の世の中を反省して環境を守ることの大切さを訴えるCMが流れていたんですよね。
 だけど、大人になって気づいたんです。プラスチックや紙製容器は、作る時に必ず化学薬品を使うけれど、木の箱の場合は必要ないことに。少年時代から心に重くのしかかっていた罪悪感から解放された瞬間でした。﹃僕は木を使ってもいいんだ! そうだ、使ったら、その分、増やしていけばいいじゃないか!﹄と。それに気づいた時は胸がいっぱいになりましたね。思い出すのもつらかった過去は、今の自分に必要な経験だった。そう思えたとき、知らずに涙があふれていたんです。

日本の伝統的なパッケージ

約100年続く伝統の技

「折勝商店」本社ビル

最後に湯島への思いをお願いします。

 湯島には歴史に裏打ちされたストーリーがあり、人もあたたかくていい街です。
 天神様が氏神様で、江戸文化の残る湯島にある会社としては、これからも「和」の伝統と文化を大切にしていきたいです。
 「人は幸せになるためにこの世に生まれてきた」というのが僕の信念です。幸せが幸せを生むよい循環の中で、環境と調和しながら、これからもここ湯島で新しい挑戦に取り組んでいきます。

株式会社折勝商店
東京都文京区湯島2-7-4
TEL. 03-3811-9760

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