2024.11.17
95号:紗都ちゃんの寺小屋ばなし12
講安寺住職、両門町会町会長 池田紗都さん
以前「悪口」というテーマでお話しさせていただいた回がございますが、そこでお釈迦さまは「人間の口の中には斧がある。悪口を言うとその斧で自分を傷つけるのである」とありましたように、悪口は相手を傷つけるだけではなく自分自身も傷つけることをお伝えさせていただきました。私は二人の幼い子を持つ母ですが、まだ小さい子に対して「嫌なことを言われたりされたりしたらどう思う? そのあと、どうする?」とよく聞きます。子を持つ親ならおそらく誰もが家庭の中で教えることかと思いますが、「やり返す」という選択をすすめている場合もあるかもしれません。それが間違いであるかどうか、という話は難しく、時と場合により自分を守るために必要なことでもあります。 お釈迦様は「実にこの世においては、怨みに報いるに怨みを以ってしたならば、ついに怨みのやむことがない。怨みを捨ててこそやむ」と説かれています。「やられたらやり返す」には終わりがないから、やり返さない勇気を持つべきで、どちらかがその繰り返しをやめなければ、傷は互いに深くなるばかりです。その流れを自分から断ち切ること、 つまり相手に対しての怒りや怨みを自分が放り出すことこそが本当の勇気ではないか、という教えですね。そりゃそうなんだけど、というところかと思います。人間には、なかなか捨てることが出来ない三毒「貪瞋痴」(むさぼり、いかり、おろかさ)という煩悩がありますから、当事者となりますとそう上手くはいきまん。 浄土宗の開祖であられます法然は、幼いとき、自分の目の前で父が夜襲にあい殺されています。その父が息も絶え絶え法然に残した言葉は「決して敵討ちをせず、「出家して我が菩提を弔え」でした。 敵討ちをすればその家族がまた敵討ちをする、その流れをつくってはならないという子を想っての言葉でした。私は自分の子に「やり返したくなってやり返したら、相手もまた傷つけてくる悲しいことが続くから勇気をもって自分で終わりにしなさい」と伝えます。難しいことですが、お釈迦様の教えを思い出して努力していく人間であってほしいと願います。大人も社会も世界も、やり返さない勇気と知恵を持ち、仲良くあれとも願います。